日本語英語

松沢大樹

国見ケ丘未来クリニック
1
2
研究概説
1
2
PETによるがんの画像診断
1
2
3
松澤ルーム
1
2
3
4
資料
1

>> go to toppage

松澤大樹 松

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

3. 目で見る精神病とこころ

ブレインイメージング(MRI, PET)で見る各種精神病(うつ病、統合失調症、アルツハイマー病)の主病巣とその治癒
「PET研究と臨床の進歩(がん、脳)PETによる脳と「こころ」の科学」より 松澤大樹


結 果

(1)こころの脳のキズと各種精神病

 松澤の断層法(NITM)によりこころの脳が解明され、こころの脳にキズを生ずると精神障害を生ずることが明らかとなった。
 図3にこころの脳のキズ(NITM、T1強調画像)と各種精神病を示す。
 a) 正常者 67歳 女性
  海馬・扁桃体コンプレックスも正常の大きさであり、側脳室後下角の間隙も狭く正常である。
  彼女は専業主婦であるがスポーツを趣味としている。
 b) うつ病 48歳 女性
  更年期うつ病で肩こり、めまい、頭痛、朝起きられない(こわばり)、高血圧(収縮期血圧180mmHg)に悩まされた。扁桃体の下半分(海馬側)に斜めに走るかなり大きな左右対称のキズが見られる。1年後自然に治癒した。治癒後、両側のキズは消失し発症時に比べ扁桃体の大きさは縮小した(うつ病の項参照)。キズの消失と共にすべての症状は消失し収縮期血圧は110mmHgと低下した。
 c) 統合失調症 18歳 男性
  幻覚、幻聴があり、妄想がある。多くの精神科医により統合失調症と診断されている。扁桃体上外側部(海馬の反対側)に長さ約1cmの左右対称の半月状のキズが見られる。FDG−PETによる検査で後頭連合野のブドウ糖消費量が激増したため、明らかに実在しないもの(彼はお化けという)が見えているのが判った。(統合失調症の項参照)
 d) アルツハイマー病 66歳 女性
  アルツハイマー病の中期(扁桃体障害期)のこころの脳のキズを示す。彼女は自分の娘が判らないし、今自分がどこにいて何をしているのかも判らない。その上、情動障害があり、いくら食べても空腹感を訴える。また、嫁が自分の財布を盗んだという妄想を持っている。こころのキズは大きく、左右の海馬、扁桃体の萎縮は極端で細くなり、今にも切れそうである。側脳室後下角の拡大が左右共に認められる。(アルツハイマー病の項参照)
 以上、述べてきたように精神障害は扁桃体にキズが生ずることにより発症することが明らかとなった。また、今までNITMで検査された結果から、精神病はこの3種類とその組み合わせのみであることも明らかとなった。

図3 こころの脳のキズと各種精神病     


(2)うつ病のキズ

 世界保健機構(WHO)によると、人の3〜5%がうつ病に罹っているという推計結果が出ている。日本人に多い糖尿病でも10%くらいと言われているから、うつ病が如何に多いかがわかる。最近は特にうつ病が増加しているように思われる。人間は本来自由な生き物であるが、現代社会では組織に管理され、自由や個性を失いつつある。また、文明社会における物質面の充実はかえって人生の目標を失わせている。最近のこの不況はリストラによる失業者を増加させ、社会不安が増して、これらはことごとくうつ病を増加させる原因になっていると考えられる。
 しかし、適切な治療を行えばうつ病は治癒する疾患である。治癒過程を観察すると、神経幹細胞がその主役を演じていることが判る。うつ病の発症は画像に示すように、左右の扁桃体の下半分の特定の或る部分にかなり大きなキズが生じる。その結果、扁桃体は膨大する。治癒過程においてはキズに神経幹細胞(neural stem cell)11)−15)の束と考えられる数条の橋がかけられる。やがてキズは神経幹細胞によってすっかり埋められ、一本の線の痕跡を残して治癒する。治癒した扁桃体は発症時に比べ縮小し、約3/5の大きさとなる。

症例1(図4) 28歳 女性


 失恋により発病し、眠れない。頭痛、肩こりなどの症状があり、母親に付き添われ2ヶ月後に来院。
 来院時のT1強調のNITMの画像(a)では、左右の扁桃体にうつ病特有の欠損像が見られるが、左側は右側に比べて小さい。治療4ヶ月後(b)、左側の欠損像消失。症状はほぼ消失した。右側の欠損像は小さくなり残存している。6ヵ月後(c)左右の欠損像は痕跡(線条)を残して治癒。扁桃体は発症時に比べて縮小、全ての症状が消失した。

症例2(図5) 48歳 女性

 (a)は発症1ヶ月のT1強調のNITMの画像である。左右対称に欠損像あり。扁桃体は膨大化している。頭痛、不眠、肩こりがあり、朝のこわばりがひどく、起きられないなどの症状があった。収縮期血圧180mmHg(治癒前)。
 (b)は1年後のNITM画像(T1強調)で自然に治癒した像である。扁桃体は発症時に比べ著しく縮小している。収縮期血圧は110mmHgに低下し、すべての症状は消失した。

症例3(図6) 83歳 女性

 老年期うつ病。前年夫が肝臓がんで死亡。最近、うつ症状と物忘れがひどくなり、内科医によりアルツハイマー病と診断された。
 老年期うつ病とアルツハイマー病の初期は症状だけでは鑑別診断は困難である。T1強調画像で左右扁桃体に欠損像あり。T2強調画像で欠損像に一致した強信号が認められる。治療により軽快。

症例4(図7) 75歳 男性

 躁病。話を始めると止まらない。禅宗の僧侶であり、人々から高僧として慕われている。うつ症状はまったく見られない。
 うつ病と同様にT1強調画像で左右の扁桃体に欠損像がある。欠損像と一致してT2強調画像で強信号があり、画像ではうつ病との差はまったく見られない。
 一般にうつ病では発症時に扁桃体の下半分(海馬側)に左右対称に大きなキズを生ずる。扁桃体は膨張し、神経幹細胞によりキズの修復が行われ、やがてキズは消失し、うつ病は治癒する。図8にその治療経過における扁桃体の大きさの変動を示す。発症時の扁桃体の大きさ(縦径+横径)は49±7.8mmで、この時期には左右対称に大きなキズがある。治療開始4ヵ月後には神経幹細胞により修復が行なわれ、扁桃体の大きさは41±8.6mmに縮小するがキズはなお残存する。治療開始後キズが消失した8ヵ月後の症例では扁桃体の大きさは33±4.1mmに縮小する。この時の扁桃体の大きさは正常時の直径約15mmに近づく。治療過程の扁桃体の縮小の程度は前半の4ヶ月に比べ、後半の4ヶ月の方がより急であり、扁桃体の縮小は直線的でなく、加速度的である可能性が高い。

図8 うつ病のキズの治療過程における扁桃体の大きさの変動     

 

(3) 統合失調症のキズ

 うつ病と統合失調症の2精神病は共に内因性疾患と言われ、どこにも身体的な障害は無いと言われて来た長い歴史がある。
 1896年、ドイツのミュンヘンの精神科医で近代精神医学の創始者のクレペリン;Emil Kraepelin16)は初めて分裂症をその他の精神病、つまり躁うつ病より悪い経過を取る疾患を早発性痴呆と名づけた。アルツハイマー病に代表される老年性痴呆と区別したものと思われる。
 それから10年後に、スイスのチューリッヒの精神科医Eugen Bleuler17)がKraepelinの概念を修正し、分裂病という概念を採用した。この言葉はギリシャ語のschizo(分裂する)とphren(こころ、または悟性)に由来している。この疾患の最も目立った特徴は、感情面と思考面がともに分裂するという点である。この病気について述べた、「あぁ、2つの精神が私の胸の中に住んでいる」というゲーテの言葉がある。
 近年の統合失調症の診療と看護の進歩はまことに目覚しいものがある。スイスのチューリッヒ大学のDaniel Hell教授18)は在院日数の変化について述べている。治療、即ち入院であった概念が1930年代になって作業療法が導入されたことによって3.1年となり、50年代に入り抗精神病薬が使われるようになってさらに短縮され11ヶ月となり、これが60年代では4ヶ月弱となり、現在では2ヶ月あるいは外来となっている。このことから入院期間が除々に短縮していることが読み取れる。しかし、統合失調症患者が病院から放出されたことにより、家庭と社会がこの難治性疾患の重荷を負うことになった。

症例1(図9−A) 18歳 173cm、体重83Kgの男子
 洋服屋の両親に付き添われて来院した。来院の理由は、昨日「出刃包丁」を持って家を飛び出した。他人様に危害を加えると困るので、患者の脳に何が起こっているのか見て欲しいというものであった。
 MRI(NITM)のT1強調画像で扁桃体の上外側部に左右対称の1cmの半月状のキズがあるのが判る(a)。厚さ4mm、ギャップ2mmで撮影された写真の下部まで貫通している(b)。患者には知的障害は見られず、診察中の会話は滞りなく進んだが、表情は平板で笑顔は無く、いわゆる統合失調症の特徴である無快楽症という状態であった。頑固な不眠に加えて、向こうから歩いてくる人が化け物に見え、同時に殺せ殺せという声が聞こえるという幻視と幻聴が主症状であり、統合失調症の陽性症状と診断した。
 18F−FDGのPET検査で後頭連合野(視覚連合野)が強信号を呈している(A−C)。つまり実在しないものが見えていることを示している。この患者はすでに数人の精神科医により統合失調症と診断されていた。

症例2(図9−B) 40歳 中肉中背の男性
 NITM画像(T1強調)により前者と同様に扁桃体上外側部に左右対称に長さ2〜3mmの欠損像が見られる。
 来院の理由は「新幹線の沿線に住んでいるが、新幹線から電話がかかってくる。それを聞くと体がばらばらになり、がんが体中に広がる。PETによるがん検査をして欲しい」というものであった。幻聴と妄想があり、笑顔は無く表情は平板だが、一見すると正常者に見え、薬も飲まず、日常の農業を滞りなく行っているとのことで、陰性症状を呈する患者である。
 22年前に発症したと言っているので、彼の言うことが正しいとすれば、18歳のときに発症したことになる。この患者も今までに多くの精神科医によって統合失調症と診断されている。

図9 統合失調症の主病巣     


症例3(図10) 78歳 女性

 NITM画像(T1強調、T2強調)で左右の扁桃体上部に約1cmの半月状の欠損像があり(左上)、厚さ4mm、ギャップ2mmの撮影で欠損像は貫通している(右上)。それぞれのT2強調画像(下段)で欠損部に一致した強信号が見られる。
 症状としては頭痛、不眠と妄想が見られる。この患者も多くの精神科医によって統合失調症と診断されている。

症例4(図11) 32歳 男性

 NITM画像(T1強調)で左右扁桃体の上部に欠損像が見られる。この症例は前者と異なって精神科医によって診断されず、偶然に発見された。
 厚さ4mm、ギャップ2mmの画像で、欠損像は貫通していない。天才的な画才があり、常人では描けない特異な絵をかく大学の講師である。 特別に統合失調症の症状はないが、周囲の人達は彼の性格は正常でないと言う。

 

(4) 混合型(うつ病+統合失調症)

 現在、精神科医は「うつ病」と「統合失調症」をまったくかけ離れた病気と診断している。松澤は当初はその診断通りに、それぞれの病気が扁桃体に別のキズを持つと考えていた。しかし、間もなく、統合失調症なのにうつ病のキズもある患者がいたことから注意深く観察し、ほとんどの患者には両方のキズ、または片方のキズの痕跡があることに気づき、現在では、うつ病も統合失調症も同じ一つの病気、混合型精神病と結論づけている。両方のキズがはっきりしている場合、片方が痕跡化して場合で症状が重なったり、偏っている可能性がある。くわしいメカニズムは不明だが、混合型精神病は最初はうつ病から始まり、統合失調症へと移行する。また、この混合型精神病に、海馬の萎縮が加わったものが認知症、と考えている。従って、松澤式治療法ではどの病気の治療も基本的には同じものである。


混合型精神病治療の基本方針

 混合型精神病の治療方針について述べる。
 両疾患とも原因が完全に解明されたわけではないが、その神経核が脳幹に多数併列し、作用の全く相反するホルモン(カテコールアミン)を全脳にデリバリーするドーパミン系とセロトニン系のアンバランスによってこの混合型精神病が発症するものと仮定する。
 統合失調症では脳内にドーパミンが過剰になっていることが知られている。ドーパミンは脳を目覚めさせ活性化することは周知の事実である。ドーパミンの過剰による過覚醒により患者は幻聴・幻覚・妄想などを生じ不眠となる。また、うつ病の場合はドーパミンとは反対の作用により、脳の機能を穏やかにするセロトニンが減少する。セロトニンは夜になると睡眠促進物質メラトニンに変わることが知られている。
1.薬物療法
 ドーパミンとセロトニンのバランスを取るための投薬を行う。統合失調症に対しては非定型的抗精神病薬オリザピンを、うつ病に対してはSSRI系薬剤の一つ、計二種類の薬剤投与を原則とする。これにより睡眠薬を飲まなくてもよく眠れ、精神状態が安定する。不安定と安定の判定は症状と血圧と脈拍数/毎分による。
 〈例〉 不安定時:血圧180/100または150/90 脈拍数130/毎分
    安定時:血圧120/70 脈拍数70/毎分
 糖尿病がある患者にはオリザピンは禁忌であり、定型的抗精神病薬を投与する。
2.食事療法
 セロトニンが全身および全脳から異常に減少している状態を改善するために行う。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから作られる。トリプトファンが多く含まれる大豆類、バナナ、赤身の魚、牛乳のいずれかを毎日食べるようにし、太陽にあたり、体を動かす指示を与える。これにより脳内、体内のセロトニン量の抜本的上昇を図る。
3.運動療法
 心身一如であり、健全な精神は健全な体に宿ることにより治療が達成されることを説き、日課として好きな運動をすることを指示する。運動の種類は水泳、バトミントン、ウォーキング、山登り、縄跳び何でも良いが、疲れてぐっすり眠れる程度の運動が理想的であるとした。運動の目的は主病巣であるキズを治す神経幹細胞の増殖を促す最も良い方法であることを実例を示しながら話す。
4.暗示説得療法
 松澤の断層法による扁桃体のキズを見せ、このキズが治ればこの精神病は完治するので頑張ろうと説得する。又、このキズを治すのは自分の海馬に眠っている神経幹細胞であり、これがキズを治す主役であることを話す。経過を追って3〜4ヶ月に一度松澤の断層法(MRI)による撮影を行い、神経幹細胞がどの位増えているか、またキズをどのように治しているかを説明する。

症例1(図12) 17歳 美しい少女

 彼女はその美しさのために中学、高校を通じて、女性からも男性からもいじめにあった。16歳のとき突然発病し、その後数度にわたって自殺未遂を起こしている。
 この写真はNITM(T1強調)で撮られた画像で、うつ病と統合失調症特有のキズが左右の扁桃体に見られる。しかし、うつ病のキズに関しては神経幹細胞の束と考えれる橋がかかっていて治癒傾向にある。この写真撮影後、少女は自殺未遂を起こしていない。
 うつ病の病巣が神経幹細胞によって早期に修復が行われる理由は、たぶん神経幹細胞は海馬にのみ存在し、海馬に接したうつ病のキズが早期に治り、海馬から遠い統合失調症のキズの治癒が遅れるのはその距離が長いためであろう。


(5) アルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)

・ アルツハイマー病とは
 アルツハイマー(Alzheimer)病はドイツの精神科医Alois Alzheimer(1865〜1915年)
によって初めて記録された疾患である。Alzheimerは強い記憶障害と見当識障害(自分が今どこにいて何をしているか分からなくなること)を主症状として発症した51歳のフランクフルトの女性について、症状が進行して死亡するまでの5年間の病状を詳しく観察し記録した。この女性が死亡したとき自ら解剖し、脳に病変があるのを認め、新しく発見された脳の病気としてドイツの学会誌に報告19)した。

・ アルツハイマー病の研究
 アルツハイマー病の研究はその症状のように多彩である。その主なものを述べる。数十年前、カナダのRoses20)は共同研究者と共にアルツハイマー病が多発する系統を調べ、遺伝的に共通の染色体異常を明らかにした。それ以来、遺伝に関する研究が世界中に広がり発展した21)。しかし、結果はアルツハイマー病の予防・治療に役立っていない。
 老人斑に関する研究22)23)がある。それは神経細胞外にアミロイド蛋白質がたまり、これが老人斑を形成し、神経細胞の樹状突起にからみつき、そのため神経細胞が死んでいくという研究である。
 また、神経原繊維に関する研究24)25)も挙げられる。神経細胞の中に変性が起こり、変性蛋白( 蛋白)ができて、これが神経細胞死につながるという研究である。事実、老人性痴呆症患者の脊髄液から 蛋白が見つかっている。
 もう一つの大きな分野を占める研究は、アセチルコリンに関する研究26)27)である。アルツハイマー病の大脳皮質からアセチルコリンという物質が減少しているという事実が見つかり、さらにアセチルコリン合成酵素にも異常が見つかっており、これがアルツハイマー病の原因であろうと考えられた。
これに基づいてアルツハイマー病の治療薬が数百種作られた。ところが、これがことごとく無効であった。アルツハイマー病の研究は現在もなお混迷の中にあると言える。

・ アルツハイマー病の発症28)と進展(図16)

図16 アルツハイマー病の発症と進展 

 アルツハイマー病では極めて多彩な症状が見られる。何故このような多彩な症状があらわれるかをMRI(NITM松澤の断層法)とPET(ブドウ糖消費量)29)30)の併用により解析した。

初期(海馬障害期)
 MRI:アルツハイマー病の初期には大脳辺縁系の主要神経核の海馬に左右対称に破壊像が見られ、この破壊が一定度に達すると記憶と認識が傷害され、認知症が発症する。当初は認知症になったり、また正常になったり、いわゆる「まだらぼけ」の状態がしばらく続く。
 PET:神経細胞はそのエネルギー源としてブドウ糖のみを使う。従って、脳の機能はブドウ糖消費量を測ることにより計測することができる。ブドウ糖の消費量はポジトロン断層装置(PET)によって正確に計ることができる。つまりブドウ糖の消費量を測定することによって脳のどこが稼動し、どこが稼動していないかを知ることができる。
 アルツハイマー病の検査では被験者にPETのベッドの上に寝てもらい、頭部だけを固定し、目を開け、四肢は自由に動かすことのできる状態とした。カセットで日本の成人なら誰でも知っている「さくらさくら弥生の空は」の歌を連続して聴いてもらい、桜の花を思い浮かべるようにという指示を与えた。検査に約1時間を要したが、この間中、ポジトロン標識のブドウ糖アナログ(18F‐デオキシグルコース)が点滴で静脈に注射された。
 正常者の大脳皮質では、すべての脳細胞がブドウ糖を使って機能している状態を示している。特に注意したいのは、こころのスクリーンといわれる後頭連合野がよく稼動している点である。正常の人にはこのように桜が思い浮かべられるのである。側頭連合野も稼動していて記憶の中枢が働いていることもわかる。発症時のブドウ糖消費量について述べる。大脳皮質には視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚などの五感の一次中枢と一次の運動中枢の他に、連合野という記憶・認識・学習・思考・情動・意思決定・独創などの高次の中枢があり、この連合野によって大脳皮質の広い範囲が占められている。正常時にはこれらのすべてが稼動している。
 認知症発症時には何と左右後方の側頭、頭頂、後頭の3連合野(合計6連合野)が一斉に稼動障害に陥る。アルツハイマー病患者の後頭連合野は稼動していない。認知症患者は桜を思い浮かべることができないのである。これにより患者は記憶と認識の脳機能を失い、認知症が発症する。このとき、両側の海馬にのみ著しい萎縮が見られる。つまり海馬が側頭、頭頂、後頭の3連合野の機能を支配していることが明らかである。認知症は海馬の破壊により大脳皮質後頭連合野の機能障害により生ずるものであることが明らかになった。まだらぼけは上述の脳機能が正常状態と認知症状態を行ったり来たりする状態である。

中期(扁桃体障害期)
 やがて認知症状態が固定され、破壊が扁桃体に及ぶと情動障害が表れる。この情動障害は扁桃体によって支配されている視床下部の諸核の機能障害によって起こる。視床下部は扁桃体の下部で脳下垂体(ホルモンの中枢)と脳幹の上部に位置し、体を直接支配している左右一対の神経核群である。
 認知症の情動障害は扁桃体の破壊によってそのコントロールを失ったために抑制が取れて、視床下部の諸神経核の機能が卓越して起こるものである(図17に視床下部の画像を示す)。飢餓感は外側野の諸核の機能が卓越して起こる。激怒感は背内側核の機能が亢進したためであり、同様に性欲の亢進を伴うのはこの核が性欲のコントロールにも関係しているためである。反対に、満腹感、オイホリーが起こるのはそれぞれの腹内側核の機能が卓越して起こる。性欲の異常は背内側座核の他に視索前核の機能異常によっても起こる。血圧異常、体温異常、水分代謝の異常も視床下部諸核の機能の異常として起きる。この視床下部諸核の異常は扁桃体に破壊が及び、扁桃体によって支配されている視床下部諸核がそのコントロールを失って、勝手に稼動し機能が卓越して起こると考えられる。これは扁桃体が海馬を介して後頭野や側頭野をコントロールしていることを示している。
 認知症患者が昼夜を分かたず徘徊するのは、腹側線条体(または側座核)の機能が卓越するためである。これは扁桃体の障害により、そのコントロールから側座核がはずれた結果であり、徘徊は中期において見られる。

図17 視床下部 要因の説明

後期(側座核障害期)
 左右の腹側線条体または側座核に破壊が及びその機能を失うと、左右の大脳皮質の前頭前野および、諸運動野の機能障害を生じる。これにより患者は脳の連合野の諸機能の記憶・認識・学習・思考・情動・意思決定・独創などの高次の脳機能すべてを失って、人間性を喪失する。人間が人間でなくなるほど悲惨なことはない。人間性が完全に消失するにも関わらず、患者は生存することができる。それは感覚系の五感と一次の運動中枢、さらに帯状回、小脳などの機能が正常に保たれているためである。

・アルツハイマー病の発症・進展の定量的観察
@アルツハイマー病の発症と海馬と扁桃体(HAC=hippocampus amygdala complex)の萎縮
 認知症の発症は海馬の著しい萎縮によって発症する。現在のMRI画像では海馬と扁桃体を分けて計測することはその解像力では困難である。ADではまず、海馬(初期)、ついで扁桃体(中期)に破壊が進む。ADを特徴付ける後頭連合野の稼動障害によって起こる記憶と認識の障害は、初期と中期を通じて不変である。以上の理由から海馬と扁桃体の大きさを海馬・扁桃体コンプレックス(左右)(HAC)としてその大きさを測定した。
 測定法はNITM(T1強調)によって左右海馬・扁桃体コンプレックス(HAC)の最大形(maximum visualization for the hippocampus and amygdala)を得て、その面積とそのときの頭蓋の断面積をプラニメーター(面積計)で計測した。


 以上の計算式によって各正常者とADの患者のHACの相対値を得た。人数は正常者と年齢マッチを行なったADの患者それぞれ37人で、その結果を図18に示した。ADの患者ではシンボルがいくつか重なった。AD患者のHAC平均値±SDは正常者のそれに比べて、推計学(student test)的に有意に低値(P<0.001)である。
AADの発症と進展における脳機能(ブドウ糖消費量=CMRGlu)の変化(図19)
 脳を一次の感覚野(PS=primary sensory area)と一次の運動野(PM=primary motor area)と連合野つまりAS(感覚系連合野 sensory association cortices)及びAM(運動系連合野 motor association coetices)に分ける。一次の連合野(PS)には視・聴・体性・臭・味などのいわゆる五感が含まれる。一次の運動野(PM)はBrocaの言語野と一次の体の運動野から成る。感覚系連合野(AS)は側頭、頭頂、後頭の脳の後半分の各連合野で構成される。運動系連合野(AM)は前頭前野、前運動野、運動連合野の構成から成る。ADの早期(early stage)では脳の後半分の諸連合野(AS)の値が正常値に比べ半減する。これによりADの患者は強い記憶障害と失認を生じる。中期も全く同様にASだけが半減する。この期では大脳には変化は無く、視床下部の機能異常が主となる。後期に至りAS,AMは半分以下に低下する。これによりADの患者はすべての脳の高次機能、記憶、認識、学習、思考、情動、意思決定、独創などを失い、人間性を喪失する。それにも関わらず、患者は生存する事ができる。それはPS、PMが健在であり、PS、PMは命の脳の脳幹によってコントロールされているからである35)

図18 アルツハイマー病発症における海馬・扁桃体コンプレックスの縮小

図19 アルツハイマー病発症・進展における脳機能の変動

アルツハイマー病の脳萎縮

図20 アルツハイマー病の脳萎縮

 図20はアルツハイマー病後期の患者のMRI(T1強調画像,T2強調画像)を示す。側脳質の拡大が見られる。アルツハイマー病の脳萎縮は脳室の拡大である。この拡大は一定の大きさでとどまり、代償性拡大と考えられる。

アルツハイマー病の病理(図21A,B)

肉眼的所見(A)
 図Aは死後の脳の二つの写真で、脳を下から見たものである。アルツハイマー病患者の脳では海馬、扁桃体が欠損している。この病理所見はMRIの画像所見と一致している。アルツハイマー病の脳では、小脳が著しく大きくなっている。小脳が大脳の機能を代償している可能性を示唆している。

顕微鏡所見(B)
 図Bはアルツハイマー病で死亡した患者の扁桃体の組織像である。樹状突起を出しているのが神経細胞であるが、これがだんだん小さくなり、ピクノーゼを起こしてばらばらになって死ぬ。このかたちは明らかにアポトーシス(細胞の自殺)31)−34)である。小さな丸いマクロファージがたくさん見られるが、これもアポトーシスを裏付けるものである。ここに見られる小リンパ球がマクロファージのみでなく、アポトーシスの引金を弾くキラーT細胞が含まれている可能性が大きい。

・まだらぼけ
 アルツハイマー病の主病巣は大脳辺縁系の海馬・扁桃体・さらに腹側線条体であり、そこがコントロールしている大脳皮質の諸連合野の機能不全により、各種の症状が現れることが明らかになった。まだらぼけとはあたかも電灯が点いたり消えたりするように、患者に認知症状態と正常状態が交互に現れることを言う。つまり、認知症の進展過程で両側の対称的な海馬の萎縮により現れる症状であり、発症時に記憶と認識の機能を持つ大脳の左右の後半分の連合野が機能不全に陥ったり、正常に戻ったりする状態である。

・ アルツハイマー病の予防(図22)
 アルツハイマー病は画像から見れば、混合型精神病(うつ病+統合失調症)に、海馬の
萎縮が加わった病気である。そう理解すれば、その初期は老年期うつ病とほとんど区別が
つかないことは当然である。海馬の萎縮がどんどん進んで初めて混合型精神病との違いが
目立ってくる。海馬萎縮の症状は高度の「物忘れ」である。
 アルツハイマー病は治療はもちろん、ある程度は予防もできる。
 薬物療法、食事療法、運動療法、暗示療法の併用により、老年期うつ病の治療を行なう。このとき、この状態は必ず改善され、アルツハイマー病にならないと繰り返し患者に暗示をかけることが極めて重要である。以上の治療により、うつ病、統合失調症は既に述べたように改善され、海馬に眠っている神経幹細胞により治癒し、また萎縮した海馬も神経幹細胞により修復される。この神経幹細胞の動態を画像によって見ることが出来る。

図22 アルツハイマー病の予防
神経幹細胞による修復

 

>> 次章「考察」へ