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松沢大樹

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松澤大樹 松

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

3. 目で見る精神病とこころ

ブレインイメージング(MRI, PET)で見る各種精神病(うつ病、統合失調症、アルツハイマー病)の主病巣とその治癒
「PET研究と臨床の進歩(がん、脳)PETによる脳と「こころ」の科学」より 松澤大樹


考 察

 うつ病、統合失調症、アルツハイマー病などの各種精神病の主病巣が扁桃であることについて考察したい。
 統合失調症では扁桃の上外側(海馬とは反対側)に左右対称に半月状の欠損像が見られる。陽性型ではこの欠損像の長さは1.0cm〜2.0cmに及ぶが、陰性型では小さく2〜3mmである。このように欠損像の大きさにより症状が違うのが主病巣と考える根拠の一つである。うつ病または躁病の主病巣もやはり扁桃である。扁桃の欠損像は左右対称で扁桃の下方(海馬側)に見られる。この点が統合失調症と全く違っている。扁桃はこの欠損に比例して膨大する。
 治癒過程は神経幹細胞(neural stem cell)の集団と考えられる橋が海馬側からかけられ、欠損が徐々に埋まっていき欠損が消失する。欠損が修復された扁桃の大きさは縮小し、直径で発症時の3/5となる。扁桃の修復が行なわれるとうつ病の症状は消失し、うつ病は治癒する。欠損像の消失と症状消失が一致することから、欠損がうつ病の主病巣であることは疑う余地は無い。欠損の片側が修復された場合でも症状は殆ど消失する。うつ病の症状は左右対称に欠損があるときのみ発現すると言える。
 統合失調症の治癒過程はうつ病の治癒過程と全く違っている。神経幹細胞がやはり治癒過程の主役を担っていると考えられるが、欠損像が段々埋められていく形がとられる。うつ病の治癒過程に比べると統合失調症の治癒過程は時間的に何ヶ月も遅れる。今までのところ、神経幹細胞の存在は海馬にだけ認められていて、扁桃には認められていない。海馬に近い扁桃のキズであるうつ病のキズが早く修復されるのに対し、海馬とは位置的に遠い扁桃の上外側部にある統合失調症のキズが修復されるのが遅いのは海馬からの距離があるためであろう(図23)。うつ病と同様に片側のキズが埋まれば統合失調症の症状は殆ど消失する。

図23 海馬と扁桃の位置

 アルツハイマー病では、うつ病、統合失調症のように治癒につれて病巣が消失、または縮小する傾向は見られず進行的である。アルツハイマー病の原因とされているβアミロイド蛋白(老人斑)の脳内分布をみると、老人斑は大脳皮質に多いのにアルツハイマー病の発症の主病巣は海馬であることから、βアミロイドの局在とアルツハイマー病発症の主病巣とは一致しない。一方うつ病がアルツハイマー病の先駆症状をなすとの研究がある。アルツハイマー病発症の主病巣が海馬であり、うつ病の病巣(キズ)が海馬に接していることを考え合わせると興味ある調査である。アルツハイマー病の主病巣は、海馬、扁桃、側座核である。これはこころの脳の主要神経核である。こころを生む仕組みの中心は感覚系大脳辺縁系と運動系大脳基底核からなり、海馬は感覚系の中枢で側座核は運動系の中枢である。扁桃は両系にまたがり、こころの中核と言える。アルツハイマー病においては病気の進展に伴い多彩な症状が現れる。
 図24にアルツハイマー病の発症に伴う大脳皮質のCMRGluの消費モデルを示す。初期には左右対称に側頭、頭頂、後頭の連合野のCMRGluが一挙に低下する。患者は記憶、認識、学習などの脳の高次機能を失う。このとき、左右の海馬のみが著しく萎縮している。左右の海馬の障害によって、後頭の左右の連合野が稼動障害を受けると考えられる。以上の事実からアルツハイマー病の初期を海馬障害期と呼ぶ。

図24 痴呆患者の大脳皮質の機能図(ブドウ糖消費量)

 後期においては、前頭前野諸運動連合野などの左右の前脳のすべての連合野のCMRGluの低下による稼動障害が見られる。患者はこれにより、前期に加えてすべての連合野の稼動障害を生じ、すべての脳の高次機能つまり記憶、認識、学習、思考、情動、意思決定、独創などを失い人間性を喪失する。それにも拘らず患者は、一次の感覚系と運動系の中枢が稼動しているため生存することができる。この後期は大脳基底核(basal ganglia)系の側座核の障害により起こると考えるのが妥当で、後期を側座核障害期であると考える。
 前期と後期との間に大脳皮質とは直接関係の無い中期がある。中期の症状は情動障害期(精神障害)であり、症状としては既に述べた視床下部諸核の機能が卓越した結果である。つまり中期は扁桃障害期であると言える。図25に海馬、扁桃、側座核の神経支配を示す。

図25 海馬・扁桃・側坐核の神経支配

 以上のようにすべての精神病障害はこの扁桃の障害によって起こる。こころの脳の主要神経核は海馬(知)、扁桃(情)、側座核(意)であり、こころの決定はその中核である扁桃によって情的に行なわれる。ところが、人間では扁桃に比べ海馬が大きく、しかも扁桃にへばりついている。そのため、扁桃の主権はしばしば海馬によって侵されることになる。扁桃による決定に迷いを生ずる。そこに暗示が入り込む。暗示の詳細な科学的機構は明らかでないが、知能系の記憶認識系のフリージングにより意思行動系だけが卓越することになる。人間は暗示にかかり易い動物である。暗示によって爆弾を抱えて自爆する行為がこのごろ日常茶飯事である。この暗示を利用し、自己暗示をかけ、自分は若いと思うことで人間は自らを一生若く生きることのできる唯一の動物と考えられる。また、暗示は精神病患者を救うために大いに利用することが出来る。
 図26にこころを生む仕組み36)を示す。こころを生む仕組みは記憶認識系、意思行動系、情動身体系の3系から成る。記憶認識系は認識科学(cognitive science)と呼ばれ、脳科学で最も多くの蓄積がある。意思行動系は行動生理学(Physiology behavior)として知られ、記憶認識系に次ぐ多くの蓄積がある。情動身体系はここで初めて松澤(筆者)により提案された系である。精神病の主病巣が扁桃であることが明らかとなった現在、この系の導入は当然である。これによりこころを生む仕組みは脳だけでなく、全身にくまなく行き渡ることになる。まさに心身一如であると言える。
 図27は人体を樹木に例えたものである。樹木は動かないが、人間にとって運動は体とこころを養い、健康を維持し、精神病を予防し、また治療する上でなくてはならない重要性を持っている。こころの脳は体と共に幹を構成しているのに対し、大脳皮質は機能枝である。人間のこころの脳は常にたくましいものでありたい。

図26 こころを生む仕組み

図27 人間を樹に例える

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