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松沢大樹

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松澤大樹 松

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

3. 目で見る精神病とこころ

ブレインイメージング(MRI, PET)で見る各種精神病(うつ病、統合失調症、アルツハイマー病)の主病巣とその治癒
「PET研究と臨床の進歩(がん、脳)PETによる脳と「こころ」の科学」より 松澤大樹


はじめに

(1)ブレインイメージングと計測装置

 今から31年前の1973年、イギリスのハンスフィールド(Hounsfield)は世界中の開発競争を制してX線コンピュータ断層装置(CT)を開発1)した。筆者も開発競争に少し関与した一人であり、1973年は忘れられない。
 CTは被験者に全く苦痛を与えることなく、直ちに治療に役立つ鮮明な生体の断層図を提供する機能を持っている。人道的かつ有用性のために医療の寵児となり、文明社会に爆発的に普及した。これはCTとほとんど同時期に開発されていた磁気共鳴装置(MRI)2)3)とポジトロン断層装置(PET)4)5)の再発見と普及を促進することとなった。
 CTの開発から31年を経た今日、CT、MRI、PETの3種のコンピュータ断層装置は広く世界中に普及し、これらが人道的で有用であるため、医学・医療を抜本的に変革し、進歩させる役割を果しつつある。
 さて、CTが開発されたとき、これで脳のことはすべて測定することができると多くの人が信じた。ところが、CTでは形は測れるが機能は測れないことが明らかとなった。
 一方、MRIでは形のほかに血流の増加を測ることができることから、脳機能の亢進を測ることができる。しかし、脳機能の低下は測定することができない。今世界中でブームになっているfMRI(ファンクショナルMRI)もやはり、機能の上昇は測ることはできても機能の低下を測ることはできない。
 ところが、PETは機能の上昇も低下も測定することができる。しかも得られる画像は定量的であり、脳機能の測定装置としてはCT、MRI、PETの三者のうち最も優れている。しかし、PETの計測にはPETのほかにサイクロトロン、トレーサー自動合成装置を必要とし、かつ高価というハンディを背負っている。
 この10年間で脳についての研究は急速な発展を遂げた。その大きな理由として、今まで、ブラックボックスの域を出なかった生きている人の脳の形や働きを、脳を傷つけることなく、人体に全く苦痛を与えず、悪影響を及ぼすことなく「見る」方法がこれら3種のコンピュータ断層装置の開発により実現したからである。
 生きている人の機能を画像にする技術によって、見たり、聞いたり、話したり、手を動かしたりするとき、脳のどこが働くかを知ることができる。さらに、記憶したり、学習したり、考えたり、工夫したり、音楽を聴いて楽しんだりするとき、どこがどう働くかも知ることができる。反対に言葉が話せなくなったり、字が書けなくなったり、急に計算ができなくなったりするのは何故かということも、同じ方法で知ることができる。この方法をブレインマッピング(Human Brain Mapping)、またはブレインイメージング(Human Brain Imaging)という。
 脳機能が正常で、今まで出来ていた事を突然出来なくなる場合には、脳の機能図で見えなくなるところが出てくる。言葉が話せなくなることを失語症という。失語症では左側の脳の言葉を話す中枢が壊れて話ができなくなる。脳細胞はブドウ糖と酸素だけを使って機能しているが、PETではブドウ糖を脳のどの部分がどれくらい使っているかを、定量的画像とすることができる。失語症では左側の言葉の中枢が欠損して見えなくなっている。
 同様に字が書けなくなる失書症では左側の側頭葉の一部の脳機能図に欠損が起こり、見えなくなる。漢字、ひらがな、カタカナなどで微妙にその位置が異なる。つまり漢字、ひらがな、カタカナで記憶される脳の部位が異なっているのである。また、計算ができなくなる失算症では、やはり左側の側頭葉の付け根の上端の角回と呼ばれるあたりのブドウ糖脳機能図が欠けて見えなくなる。つまりここに計算の中枢があることがわかる。
 ブドウ糖消費量で見えなくなる代表がアルツハイマー病である。発症時には大脳皮質連合野つまり脳の後半分のすべての連合野が一斉に機能不全に陥る。そのため患者には強い記憶障害と失認が起こり自分の娘が誰であるかが分からなくなったりする。さらに症状が進み後期になると、それまでの脳の後半分のすべての連合野に加えて、さらに脳の前半分の左右の前頭前野、前運動連合野、運動連合野などの機能障害が起こり、すべての脳の高次機能を失って、人間性を失う。しかし、一次の視覚や聴覚、触覚などの感覚中枢及び、一次の運動中枢や外界への注意を司る帯状回または、小脳などはすべて正常に働いているために生存することはできる。これが認知症の代表的疾患といえるアルツハイマー病の後期の脳の機能状態である。
 このように目に見える脳機能と同様、またはそれ以上に見えなくなる脳機能は、脳科学にとって重要である。機能異常が起こるのは何故であろうか。アルツハイマー病の発症の原因が大脳皮質の萎縮または異常によるものでないことは既に我々が行なった膨大な疫学的研究6)―10)から明らかであった。発症機構を明らかにするためには発想の転換による新しい工夫が必要であった。

(2)見え始めたこころの脳

 我々は1977年からCT、1980年からPET、1983年からMRIを手許で稼動させ、自由に利用できる幸運に恵まれた。これらは計らずも、世界のイメージング脳科学の幕開けに先駆けること、10年も以前のことであった。その成果の主なものを列記する。
 ・大脳皮質が萎縮しても認知症にならない。
 ・大脳皮質に脳梗塞が多発しても認知症にならない。
 ・大脳皮質連合野に直径5cmぐらいの大きな腫瘍、梗塞、出血があっても、無症状、無自覚であることがしばしばである。
 これらの結果は精神障害を含む脳の重大な障害の主病巣が大脳皮質以外のところにある可能性を示唆していた。これらの成果を機に発想の転換により、この重要な脳の部位を探す新しい断層法を開発することになった。
 脳は脊髄の末端が膨らみ分化してできたものと発生学では考えられている。大脳では、まずできた脳が脳幹である。ここは命の脳またはへびの脳と言われている。次に出来た脳が古い哺乳動物の脳と呼ばれている大脳辺縁系と大脳基底核で、ここは性欲、食欲の中枢と間違って考えられたことから犬猫の脳と呼ばれてきた。最後に出来た脳が、人間で最も発達した大脳皮質で人間の脳、または知能と行動の脳と呼ばれている部分である。
 脳の重要な機能障害を起こす原因がどこにあるかを知るため試行錯誤を繰り返した結果、上記の脳の三層構造をすべて同一画面上に描き出すことの出来る断層法を開発した。松澤の断層法(=国際特許)と名付けた。これによりアルツハイマー病の主病巣が分かって来た。それは犬猫の脳と呼ばれて来たところであり、此処こそ「こころの脳」である。すべての精神障害、つまりうつ病、統合失調症、アルツハイマー病などの精神障害を生ずる疾患は、このこころの脳のキズにより起こることが分かって来た。

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