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 top > 研究業績 > 2. 業績と研究内容の概略

松沢大樹

国見ケ丘未来クリニック
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研究概説
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PETによるがんの画像診断
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松澤ルーム
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松澤大樹 松

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

2. 東北大学名誉教授に推薦するための功績調書

 松澤教授の教授就任により、その在任期間中の十七年間に東北大学抗酸菌病研究所放射線医学研究部門は、めざましい発展を遂げた。現在、撮像原理が違い、コンピューターによって人工的に画像を再構成する点で共通の3種類のコンピューター断層装置が開発され、世に普及している。X線コンピューター断層装置(X-CT)、磁気共鳴映像装置(MR)、ポジトロン=陽電子断層装置(PET)であり、これらの装置により、生きている人の極めて詳細なからだの局所の形態と生化学的機能を知ることができるようになった。しかも、これらの装置は他の医療の検査法と違って被検者に何ら苦痛を与えずに、予防・治療に必要な情報を直ちに提供する機能を持っているまことに人道的装置である。
 そのため、これらの装置は爆発的に文明社会に普及し、医療の寵児として医療全体の科学化と近代化を推進する担い手となった。日本でX-CTは現在6000台が設置され、世界一の高普及率を示し、MRは300台が稼働、PETは十数台が設置されている。
 X-CT以外のMR、PETの国立大学1号機はことごとく東北大学に於て稼働した。
 PETは現在3台が青葉山に於て動き、世界屈指のPETセンターとなった。MR、3台のPETの設置と稼働はことごとく松澤教授とそのグループの努力によるものである。
 放射線医学研究部門に臨床科を増設し、講師、助手の定員化を計り、さらにセンター長としてサイクロトロン核医学部門を青葉山のサイクロトロン・ラジオアイソトープセンター内に新設し、教授1名、助手1名(振替)、技官2名の定員化を行った。
 このように松澤教授は東北大学においてサイクロトロン核医学を発展させた最大の功績者でもある。
 何よりも大きな功績はこれらの医療装置を稼働させることにより、日本の医学、医療の将来を担う近代感覚と新しい技術をもった優れた医師を多数育成したことである。
 現在、青葉山のサイクロトロンセンター内で医学部、抗酸菌病研究所の各部門から大勢の医師と研究者が出席し、松澤教授を中心に月曜日午後6時からポジトロン断層装置による画像を資料とする討議会が行われている。これは医学系の各部門のみならず、医学部、抗酸菌病研究所のへだたりが一挙にとり去られる方向であり、この功績の大きさは計り知れないものがある。
 以上研究に関する業績は、教授就任講演のタイトル“発生、加齢、がんの細胞動態”にみられるように、脳の老化から痴呆に至る加齢に関する一連の研究とポジトロンによるがんの超早期診断に到るがんの画像診断に関する一連の研究の二つに大別することができる。いずれも世界の頂点に立つ研究である。これらの研究の特徴はいずれも生物学的基礎に立つ点で共通の背景をもっている。
 
 業績を以下の三つに大別することができる。
 [1]ポジトロンがん診断法の開発
 [2]脳老化〜痴呆に関する研究
 [3]その他


 
[1]ポジトロンがん診断法の開発

 ポジトロン断層装置(PET)の国立大学第1号機を松澤教授は青葉山に設置した。ついで同所に設置された2号機である931型機、3号機であるTOF型機もことごとく松澤教授およびそのグループの設置によるものであり、今や世界屈指のポジトロン・センターに成長している。
 PETは生体の局所の代謝を定量的にとらえる機能を持っている。このPETを使って“がん”の超早期でしかも“がん”の種類をも診断できる診断法を開発した。
 その基本的原理を述べると“がん”と正常組織との間に代謝の違いは見出されない。しかし、“がん”はさかんに増殖しているため、その基質のブドウ糖、アミノ酸、核酸などに飢えていると考えることができる。
 飢えている魚は擬似餌で釣れる。擬似餌、疑似アミノ酸、疑似核酸を合成し、ポジトロン標識を行い、正常組織から“がん”を浮かび上がらせるという考え方である。この研究方針のもとに18F標識疑似コンニヤク糖(18F-FDM)、18F標識疑似ブドウ糖(18F-FDG)、11C-メチオニン(11C-Met)、18F-標識デオキシウリジン(18F-FDUR)等の有効なポジトロン“がん”診断薬が開発された。
 現在における最もすぐれた“がん”診断法である。18F-FDM又は18F-FDGが首から下、11C-Metが脳の診断に最もすぐれていて、両者を用いると全身の“がん”を数ミリメートル直径の大きさで診断することができる。このポジトロン“がん”診断法は“がん”から放射線が出るので検出感度にすぐれ、“がん”探知器の開発が可能であり、その装置の開発が進められている。
 このすぐれたポジトロン“がん”診断法の開発は、もっぱら松澤教授の独創的アイディアとその指導力によるものである。
 このように松澤教授を中心とする東北大学のグループはポジトロン診断法により“がん”診断の分野でまさに前人未踏の仕事を成し遂げたといえる。
 ポジトロン“がん”診断法の開発に関しては松澤教授が主催した国際シンポジウム「International Symposium on Current and Futurer Aspects of Cancer Diagnosis with Positron Emission Tomography (PET '85) Sendai, Japan, Oct. 14-18, 1985.」および1988年西ドイツのハイデルベルグで行われた国際シンポジウムにおいて松澤教授の行った招待講演「Current and Future Aspects of Cancer Diagnosis with PET」にまとめられている。

[2]脳老化〜痴呆に関する研究

 脳老化〜痴呆の研究は、松澤教授のマウス胎児脳の発生過程の細胞動態から出発している。マウスの胎児は母体内において成長し、胎生20日間で生まれる。この間における終脳から大脳に到る過程で、ニューロンは非常な速さで増殖し、分化し脳の形態形成が行われ、機能化に向かう。
 この間のニューロンは、増殖速度が低下し、やがて増殖を停止し、機能細胞となるが、その間の増殖速度の低下はもっぱらG1期及びS期の延長により行われ、G2期とM期は不変であることを明らかにした。
 つまり細胞増殖に伴ってその細胞が分化するときの特性はG1期とS期の延長が特徴的であることを見出している。
 この研究を基礎にそれ以後の研究の方向が二つに分かれた。
ニューロンの分化に関する研究
 その一つはニューロンの増殖を停止させ、文化を促進させる因子の抽出に関する研究で、この研究は教授就任後まもなく行われ、胎生末期に最も多く分泌され、神経芽腫細胞を形態的にも機能的にも分化させるはたらきを持った分子量数万の糖蛋白であることをつきとめて終わっており、論文として国際誌に発表された。

■脳老化の研究
 もう一つの研究は松澤教授が教授生活をつらぬいて行った仕事となった。それは分裂を停止し、機能細胞となったニューロンの数の減少、つまり加齢に伴う脳の萎縮又は脳の老化の研究へと発展した。
 この研究は松澤教室の研修病院である佐々木病院又は渡辺病院にX線コンピューター断層装置が導入されるにおよび、加齢に伴う頭蓋骨に対する脳体積が実測された。この研究調査の地域は東北地方全土に広がり、教室をあげての世界一の規模をもった壮大な脳老化の疫学が展開された。この研究により医学博士の学位を得た教室員は十数名におよび、国外、国内に発表された英文、和文の原著は約百編におよんでいる。
 その内容を要約すると

1. 脳の実質は男女共に30才付近まで成長する。
それは神経繊維の増生が主役を演ずる。
2. 脳の実質の充実度は30才付近でピークとなり、それ以後大きなバラツキを示しながら低下する。70才代、80才代、90才代といった高齢に到るも、20才代、30才代の若い人々とあまり変らない脳の実質の充実度を保つ人々の集団がある一方、40才代、50才代、60才代で脳の充実度が急速な低下を示し、20-30%の脳実質の消失が起こったと考えられる集団に分けられることが明らかとなった。
3. 脳の充実度が低下する因子が数多く抽出された。その後国立大学の第1号機として導入された磁気共鳴映像装置(MR)によりこれらの集団の脳において小梗塞が多発していることが見出され、血流障害こそ脳老化の促進因子であることが明らかにされた。これらの因子を制御し、脳の血流量を低下させず一定に保つことができれば、脳の老化を未然に予防し得る極めて重要な結果を得ている。
4. 脳の老化が軽度である集団においては、80才代、90才代の高齢者においても20才代、30才代の人々と変らない脳局所の血流量が保たれていることが明らかとなった。
5. 以上をまとめると人間の脳は極めて大きな可能性をもっていて、ピカソとかシャガールの絵画の大家たちのみならず、人間は90才代という高齢になるまで脳を老化させずに生きれることができる動物であることが明らかとなった。これらの世界に誇るに足る業績はもっぱら松澤教授の卓越した研究プロジェクトの選択と指導力によるものである。

■痴呆の研究
 今や日本は世界一の最長寿国となった。それと共に社会を構成する人口の高齢化は加速度的に進展し、老年期痴呆疾患の患者は増加の一途をたどっている。
 痴呆疾患は人間性喪失の症候群であり、その症状は大きく健忘、失認などの知的障害と各種の情動の障害とに大別することができる。痴呆症候群を呈する疾患は単一ではなく、多発性梗塞性痴呆(multi infarct dementia=MID)、アルツハイマー病(Alzheimer disease=AD)がその代表的疾患であり、この他にパーキンソン氏病、ピック氏病、ビンス・バーガー氏病なども痴呆症状を呈する疾患として知られている。日本ではMIDが60%、ADが30%、その他が10%といわれている。欧米ではMIDとADの比が逆転する。なぜこれらの原因の異なる疾患が同じ痴呆症候群を呈するか、そのしくみを明らかにすることは直ちに痴呆疾患の予防や治療の具体策を得る途につながり、同時にまた“こころ”のしくみに迫る途でもあると考えられる。それは痴呆は人間喪失の症候群であり、共通にあらわれる知的、情動的障害こそ“こころ”の障害と考えられるからである。痴呆症候群発症の“しくみ”についてX-CT、MR、PETなどのコンピューター映像装置による画像解析がすすめられた。
 その成果の要点を列記する。

1. PETによるブドウ糖消費量からみて大脳皮質の半分が脳梗塞のため全く機能を停止しても痴呆とはならないこと、また大脳皮質に多くの梗塞があっても痴呆とはならないことなどから大脳皮質だけの障害のみでは痴呆とはならないことが明らかにされた。
2. また脳の萎縮が最も激しい人が痴呆となるとは限らず、中途に痴呆の患者が出現するところから痴呆の責任病巣が想定された。
3. X-CTの疫学的調査によりMID、AD共に扁桃核と海馬に接する側脳室後下角の拡大が突出してみられた。
4. 痴呆の患者では両側性の扁桃核と海馬の神経細胞の脱落による萎縮が激しく、扁桃核と海馬の萎縮が一定の容積に迄低下し、機能障害に陥ると痴呆症が発症することが明らかにされた。
5. 痴呆症の発症は扁桃核・海馬を中心とする大脳辺縁系の障害により側頭、頭頂、後頭連合野の稼働が両側性に機能的に停止することによるものである。
6. 次いで前頭及び運動連合野の稼働がやはり両側性に機能的に停止しこれはマイネルト基底核の障害にもとづくものと想定された。
7. 大脳皮質は扁桃核、海馬、マイネルト基底核などによってコントロールされていることが明らかとなり、これらの諸核は大型コンピューターにおける中央制御装置(central processing unit=CPU)類似の機能をもっていることが明らかとなった。

 以上の結果は痴呆症候群の発症機構を明らかにし、その予防と治療の可能性を示唆し、“こころ”のしくみに迫る重要な成果であり、松澤教授を中心とする教室員によって行われた前人未踏の仕事である。この成果は大型コンピューター、人工頭脳の開発に大きなインパクトを与え、さらに今後の脳の高次機能解明に大きな影響を与えるものであると考えられる。脳の研究の大要は松澤教授の著書「痴呆と“こころ”」にまとめられている。

[3]その他

 松澤教授の研究上の功績は以上の二つに大別することができるが、その他では“がん”の治療の研究、その生物学的基礎研究及び装置の開発などの研究がある。
 また東北大学内の学際協力により研究の活性化を計るための全学組織であるTURNS(Tohoku University Research Networks)(石田前学長の提唱)の「脳研究会」(いわゆる脳の会)及び「人間の科学」を主催し、東北大学全学の研究の発展に寄与したこともやはり特筆すべき功績といえる。
 さらに東北CTスキャン研究会を鈴木二郎教授と共に創設し、機関誌を発行したことも東北地方における画像診断研究の活性化を計るために行った一連の功績の一つである。
 
 以上をまとめると松澤教授の功績は抗酸菌病研究所内にとどまらず、東北大学及び日本の医学の科学化、近代化を大きく前進させ、人間の生存と繁栄に寄与する実際に役立つ科学を展開しためざましいものであるといえる。

注) 文中の「痴呆」は現在は一般には「認知症」、「扁桃核」は「扁桃体」と表記されています。