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松沢大樹

国見ケ丘未来クリニック
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松澤大樹 松

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

1. 東北大学におけるPET開発の歴史と将来の展望

 東北大学におけるPET開発の歴史はそのまま日本、または世界おけるPET開発の歴史である。草創期、現在の東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター長である石井慶造教授の師であり、前理学部教授であった森田右名誉教授は、当時理学部に設置されていた加速器ヴァンデグラフを廃止し、代わりに強力な加速器の中型のAVFサイクロトロンを設置したいという希望を持っておられた。ところが、その当時の森田研究室だけではこの大きな事業を遂行することが困難であることが明らかであった。そこで、医学系の抗酸菌病研究所・放射線医学部門教授であった松澤大樹を仲間にいれ、東北大学全学の共同利用施設にしようという構想を持たれ、松澤に声を掛けられた。当事、加速器医学に意欲を持っていた松澤は二つ返事で引き受け、ここに森田・松澤の協力体制が出来上がった。1977年4月にサイクロトロンラジオアイソトープセンターが正式に発足する訳であるが、その数年前から森田・松澤の文部省通いが始まった。詳細は省略するが、結局文部省は医学利用を主とする中型のサイクロトロン設置を認めた。フランスのトムソン社製680型AVFサイクロトロンを住友重機械株式会社の協力を得て青葉山に設置することとなった。
 ここで初めてPETが登場する。松澤は日本の国民病であるガンの征圧にPETを利用することを初めから第一の目標としていた。それにはガン細胞に集まり正常細胞には集まらないサイクロトロンで作られるトレーサーを見出すことから始めなければならない。考えながら歩いていた広瀬川で、毛針で小魚を釣っている少年たちに出会った。これを見て「疑似餌でガンを釣ろう」と思い立った。このアイデアを始めて発表したのは1976年(昭和51年)10月15日信州の白骨温泉で行なわれた文部省がん特別研究の班会議の席上であった。センター発足の一年前である。後に、PETガン診断の世界の第一人者となるが当事は信州大学の学生であった窪田和雄がこの会に出席していた。窪田のPETガン診断に関する貢献は大きく、PETガン診断が世界に広く知られるようになったのは彼の功績であると言っても過言ではない。


 疑似餌の一つである18F-FDGを作った井戸達雄を放射線医学研究所から東北大学教授として万難を排して迎えたのも、ガンのトレーサーとして18F-FDGを使うためであった。ところが、東北大学教授となった井戸達雄は18F-FDGをガンのトレーサーとして使うことに反対であった。それは、彼は18F-FDGは脳機能の計測に至適のトレーサーと考えていたからである。話し合いにより18F-FDGを造ることになり、18F-FDGがガンのトレーサーとして世界で始めて使われた。その後の東北大学におけるガンのトレーサーの開発には、現在東北大学サイクロトロン核薬学教授の岩田錬の大きな功績がある。現在使われている世界のPETトレーサーの何割かは岩田が関係している。岩田は松澤のことを「疑似餌の松澤」と呼ぶ。
 その後、東北大学において疑似餌に相当する18F-FDG、18F-FDM、18F-FDURなどが相次いで作られた。この内18F-FDG以外は18F-FDGに押されて現在あまり使われていないが、再検討の余地がある。上記のように、PETガン診断は松澤を中心に東北大学グループによって創建された。
 松澤を助けてこの草創期の事業を成功させた、現在加齢医学研究所の教授の福田寛の功績も忘れることは出来ない。
 PET装置の開発についてはCTI社(アメリカ)からセイコー電子株式会社を経て購入したECATUが第一号であった。現在のセンター長で工学部教授である石井慶造は濃度分解能に優れる石井式TOF−PETを開発した。また、PETの解像力を1mm以下にするなど前人未踏の世界に誇る仕事を展開している。
 また、東北大学グループは力を合わせて松澤を責任者として1985年、1993年と相次いでPET in Oncologyの国際学会を仙台において開催した。今やPETによるガン診断は世界中に広がり、世界を動かす大きな医療産業となっている。
 東北大学のこのセンターには多くの優れた人材が集まり、現在日本各地で活躍している。前記の窪田和雄は東京の国立国際医療センターのPETの責任者として多くのガン患者のPET診断を行なっている。秋田県立脳血管研究センターから大阪大学教授になった畑澤順はPETを利用する脳とガンの研究で優れた業績を挙げている。名古屋に近い大府市にある国立長寿医療センター研究所で長寿脳科学研究部長に就いている伊藤健吾もやはりPET脳、PETガンの両面で優れた仕事を進めている。また、仙台厚生病院放射線科部長の山口慶一郎は窪田和雄とは正反対の分野でPETガン診断における重要な仕事を果してきた。窪田がPETガン診断の可能性について研究を進めたのに対し、山口はその限界について調査を進めた。それは、18F-FDGはガンだけでなく、炎症にも集まり、いわゆる偽陽性(false positive)のケースが多発する。これは18F-FDG・PETガン診断で欠くことのできない重要な仕事である。
 PET研究における将来の展望について述べる。まずPETガン診断については、残念ながらPETがガン診断にどのくらい役立ち、患者を救うことが出来るかは確立されていない。PETガン診断における大きな可能性とその限界を明らかにする必要がある。その場所として総合南東北病院は最も適している。診療各科を持つ総合病院であり、PET-CTカメラ2台、PETカメラ3台を持ち、診療各科が関与する一つの有機体であり、且つ病理部門があるからである。もう一つPETの大きな可能性は脳の機能分野における研究である。現在、東北大学サイクロトロン核医学教授の伊藤正敏の「こころのPET」の意欲的な仕事は高く評価されるべきで注目すべきものがある。また、神経伝達物質とPET特にヒスタミンの研究を展開し、世界的に高い評価を受けている東北大学医学部教授である谷内一彦の研究もやはり注目に値する。
 総合南東北病院高次脳機能科の松澤は最近MRIとPETのコンビネーションにより「こころの脳」を発見し、こころの脳特に扁桃体にキズが生ずることにより、うつ病、統合失調症、アルツハイマー病などが発症し、キズが治るとこれらの疾患のうちうつ病、統合失調症は治り、またアルツハイマー病は合理的治療により予防できることを明らかにした。人類にとって大きな課題であるこころの科学は現在黎明期である。こころの科学を推進し担うのもやはりPETである。

 

(「PET研究と臨床の進歩(がん、脳)」より 松澤大樹・石井慶造)